WHAT:何が学べる?
12年連続を含む合計14回のリサイクル率日本一を獲得、2018年第2回ジャパンSDGsアワード内閣官房長官賞を受賞した鹿児島県大崎町。人口約1万3000人のこの町では、企業や研究所などと共同で「リサイクルの次」に向けた動きが始まっています。現在、「すべての資源が循環する持続可能な社会をつくるプロジェクト」としてOSAKINIプロジェクトを展開。大崎町の循環型社会に向けた取り組みを学べる視察を受け入れています。
企業にとっては、以下のような目的で視察することができます。
●さらなるリサイクル率向上に向けた課題を目の当たりにすることで、企業の循環型設計戦略へ活かす
●新規雇用や経済的側面を重視しながら環境課題を解決することに取り組む様子からヒントを得る
●「世界の人口一万人地域で応用可能な循環型地域経営モデル確立」について学ぶ
●住民・企業・行政の連携について学ぶ
WHY:なぜ大崎町なのか?
サーキュラーエコノミーを通じて、「新しいしごと」を創出する過程から学びを得る
「第2期大崎町 SDGs 未来都市計画」は、循環型社会形成に携わる「新しいしごと」を生み出すとしており、リサイクル率のさらなる向上だけではなく、その過程で産業が発展していくことも視野に入れています。
循環型社会への移行に向けては、「リサイクルの町から世界の未来をつくる町」を目指す「サーキュラーヴィレッジ」構想を軸に、サーキュラーエコノミーの概念を取り入れたまちづくりを進めています。
たとえば、2027年までに使い捨て容器に代わる新たな手段の普及率を80%にすることを目指しています。リサイクルの取り組みからサーキュラーエコノミーへと移行する過程において、新たな産業や人の流れが生まれるかもしれません。ここで、自社として何ができるのか、思いを巡らせることができる場といえるでしょう。
大崎町の歴史
ごみを焼却せず埋め立てに頼ってきた大崎町。1990年から運営されている埋立処分場の残余年数が逼迫してきたことがきっかけとなり、ごみの処理方法について検討することになりました。
そこで、3つの選択肢が浮上。まず焼却炉の新設。しかし、焼却炉には莫大な運営費がかかり実現が難しいという結論に。次に新たな埋立処分場の建設が検討されました。他の場所に埋立処分場をつくる選択肢です。これも、埋立処分場は悪臭を放つ施設だという一般的な懸念が払拭されず、採用されることはありませんでした。結果的に、既存の埋立処分場を使い続ける代わりに、分別・リサイクルを徹底し、埋立量を減らしていく方向に舵を切りました。
3品目から始まった分別も、生ごみ・草木の分別が加わり、さらに住民の意見が反映されながら27品目まで拡大、2017年にはリサイクル率84%を達成しました。結果、埋立処分場の延命(あと約40年利用可能)という、環境面だけではなく経済面からも大きな成果を上げました。たとえば、大崎町の1人当たりのごみ処理事業費は9,364円と、全国平均の3分の2の費用となっています。削減した費用は、卒業後10年以内に大崎町に戻る生徒の親に奨学金として支給するなど、町に還元されます。
図:未来の大崎町ヴィジョンマップ(提供:一般社団法人大崎町SDGs推進協議会)
主な視察先例
下記は主な視察先例です。(今回は、大崎町SDGs推進協議会 広報の中垣るるさんにご案内いただきました。)
埋立処分場 (曽於南部厚生事務組合清掃センター)
粗大ごみ・紙おむつ・革製品・マスク・ティッシュなど大崎町でリサイクルされない廃棄物(全体の17%程度)はすべてこの処分場へ運ばれます。当初は2004年までの利用期間といわれていたのですが、分別・リサイクルの取り組みの成果により、現在ではあと40年ほど使えると予想されています。
実際に訪れると、まずあまり臭いがしないことがわかります。これは、有機廃棄物が埋め立てられないことによる影響が大きいようです。
次に、リサイクル率が高いことで知られる大崎町ですが、それでもなお少しずつ埋め立てられていく現状を目の当たりにすることになります。必然のこととはいえ、感じるものが大きいようです。現場だからこそ得られる体験なのでしょう。コスト面・利便性など最適された形でいかに循環型設計ができるか、思いを巡らせる原動力になるかもしれません。
写真:埋立処分場 大崎町SDGs推進協議会 広報の中垣るるさんによる案内
写真:資源ごみ回収場。(生ごみは週3日、資源ごみは月に1回回収されます)
写真:右側に見えるプラスチック類はピンクの指定袋、一般ごみは青の指定袋へ。
左側に見える「紙おむつ専用回収ボックス」は、実証実験中の紙おむつ回収ボックス。紙おむつから回収された再生プラスチックを使用した回収袋で紙おむつを回収する実証実験も一部地域で進行中。
大崎有機工場
生ごみの完全堆肥化は大崎町リサイクルシステムの要といっても過言ではありません。一般に、生ごみは全体の約3割、約80%-90%が水分だといわれ、焼却時には多量のエネルギーが必要です。これを大崎町全体で取り組むことで、埋め立て削減・リサイクル率向上に大きく貢献しています。生ごみは約6ヶ月かけて完熟堆肥化し、「おかえり環ちゃん」の名前で主に町内(または住民)向けに安価で販売されています。
写真:二次発酵の現場
写真:「おかえり環ちゃん」
生ごみ・草木は、「おかえり環ちゃん」として、再度循環されます。
他にも生ごみを粗破砕する重機、乳酸菌の入手先など、サーキュラーエコノミーの要素を感じる部分が多くあります。大崎町が大切にする「コスト削減」。これを追求した先にサーキュラーエコノミーがある、そんなことを感じられるかもしれません。
そおリサイクルセンター
民間企業で中間処理施設を運営する「有限会社そおリサイクルセンター」。ごみステーションで回収された資源ごみは同社が回収し、さらに細かく分別、買取業者へ販売します。曽於市や志布志市、そして大崎町等の約10万人分の資源ごみがここに集まり、ごみの出口との架け橋となる重要な拠点です。同センターでの雇用は40名、まさにリサイクルシステムが生んだ成果でもあります。正しく分別することがどのような効果を生むのか、同施設で体感することができるでしょう。
写真:プラスチック類(そおリサイクルセンター)
大崎町の今後
大崎町が抱える課題を解決し、サーキュラーヴィレッジで掲げる目標を達成するためには、さまざまな主体との連携が重要となります。
たとえば、町の高齢化率が高まるにつれて、分別をより容易にすることも考えられるかもしれません。自動分別センサー付きの処理機を開発するなど、住民のウェルビーイングを考えた上で、環境にポジティブな活動をしていく必要もあるようです。
他にも廃棄物総量削減の問題が立ちはだかっています。「リサイクル率は高いのですが、1人あたりの総排出量には変化がないため、そこはこれから取り組んでいかなければならないと思っています」と話す中垣さん。2021年には、「大崎町の取り組みを協働でより循環型の仕組みにアップデートしていく企業・団体」を募集していたこともあります*が、まさに企業と手を組む必要のある領域だといえるでしょう。
*サーキュラーヴィレッジ・大崎町で、循環型社会の構築を協働する企業・団体・自治体を全国から募集開始。本年度のテーマは「環境負荷の低い商品の生産・販売・流通方法の開発」と「大崎リサイクルシステムの展開」
具体的には、持続可能で耐久性が高くリサイクルしやすいなどの循環型商品やパッケージの開発、食品ロスや地産地消、再生可能エネルギーなど、企業と連携を強めていくことがますます期待されています。リサイクルシステムを学び、自社として何ができるかを考えられる場、それが大崎町なのです。そのハブとなる大崎町SDGs推進協議会は、企業連携の橋渡しとして重要な役割を担っています。
研修やワークショップができる施設は?
「道の駅くにの松原おおさき」のセントロランドは、研修室・イベントホール併設のホテルとして運営されており、研修としての利用が可能です。
また、2023年12月には大崎町の分別が体験できる体験型宿泊施設、OSAKINI Base(仮)が完成する予定です。同施設では27品目の分別が体験できるほか、上記の堆肥を使って栽培された野菜を収穫する体験ができるなど、「大崎町らしい」施設として稼働する予定です。
写真:一般社団法人SDGs推進協議会プレスリリース
大崎町視察者に向けたメッセージ
最後に中垣さんから視察者に向けて下記のメッセージをいただきました。
「大崎町がリサイクルを始めて25年がたちました。地域のみなさんが大切に守り、続けてきたことをぜひ現地で見て触れていただきたいです。また次のステップへと進む大崎町へ企業のみなさまからの熱い後押し、お力添えをいただけますと幸いです。なによりもまずは、普段の生活から離れて大崎町でゆっくりと過ごされてください。お待ちしております!」
大崎町の取り組みから、サーキュラーエコノミーに向けた企業・住民・行政の連携のあり方について考えることができます。同町のサーキュラーエコノミー移行に向けた取り組みを目の当たりにすることで、自社戦略を考えるきっかけになるかもしれません。視察に関心のある企業・団体は下記よりお問い合わせください。