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【サーキュラーエコノミー視察先例】環境と経済の統合的発展を遂げる北九州エコタウン事業からサーキュラーエコノミーのヒントを得る

福岡県北九州市
視察OK

2023.10.11

【サーキュラーエコノミー視察先例】環境と経済の統合的発展を遂げる北九州エコタウン事業からサーキュラーエコノミーのヒントを得る

WHAT:何が学べる?

エコタウン事業*の先進地として知られる北九州市は、環境と経済を一体化させて発展を遂げてきました。その経緯や仕組み、現在の取り組みから企業は多くのヒントを得ることができます。

*エコタウン事業:資源の相互利用を通じてあらゆる廃棄物をゼロにすることを目指すゼロ・エミッション構想に基づいて、資源循環を図りながら産業振興を図るプロジェクトで、1997年から経済産業省および環境省による地域の承認が始まりました。

今回ご紹介する北九州市エコタウンセンターは、北九州エコタウン事業の「玄関口」として、同事業の紹介や学習・施設見学を行っています。

企業にとっては、たとえば以下のような目的で視察することができます。

●北九州市の歴史や現在の取り組みを学び、「エコタウン」について知る
●リサイクル工場を見学し、リサイクルへの取り組みや課題を感じ取ることで、企業の循環型設計戦略などへ活かす
●エコタウンにおける企業の相互連携、資源の相互活用について学び、廃棄物をゼロにしようとするゼロ・エミッションについて学ぶ
●北九州市が培ってきた環境基盤に触れ、サーキュラーエコノミー移行に向け何ができるか思考を深める
●公害を克服する過程における企業・行政・住民の連携を理解し、循環型まちづくりについて学ぶ。その上で、自地域での活動のヒントとする

WHY:なぜ北九州エコタウン事業なのか?

環境産業都市・北九州市の象徴であるエコタウン事業を視察することで、サーキュラーエコノミー移行に向けて自社ができることを考える

歴史

戦前から戦後にかけて鉄を中心に発展し、四大工業地帯の一つとして知られるようになった北九州市。しかし、1960年代には国内最悪となった大気汚染に加え、洞海湾では工場排水による水質汚染が深刻化。「ばい煙の空」「死の海」と呼ばれるようになりました。

そんななか、北九州市の子供たちの母親が立ち上がり、「青空が欲しい」というスローガンのもと市民運動を展開。この運動がメディアで取り上げられ、企業や行政も取り組みを開始。やがて80年代には環境が改善されるに至りました。

1997年にはエコタウン事業として国から認定された後、市は北部の若松区響灘地区を北九州エコタウン地区に指定。環境・リサイクルに関連する教育・基礎研究や技術・実証研究、事業化を一体となって進めています。現在エコタウンにはリサイクル企業など27企業が集積。2016年の調査では、北九州エコタウン事業によるCO2排出削減効果は43.3万トンと、数値面でも大きな成果を挙げていることがわかります。

さらに詳しい歴史については、北九州市のホームページや現地で確認してみてください。

エコタウン先進地

冒頭に述べた北九州市による産業公害の克服は、国内外から高く評価されています。1992年にはリオデジャネイロで開催された「国連環境開発会議(地球サミット)」で「国連地方自治体表彰」を日本で唯一受賞したことを始め、公害克服の技術や環境と経済の一体化、市民・企業・行政の連携などの面で注目され続けています。ノーベル平和賞受賞のワンガリ・マータイ氏は、「環境のことは北九州に聞け」と言ったほど、環境面で世界に発信する北九州市の存在感は大きいのです。

北九州方式3点セット

北九州エコタウンの強みは何といっても、教育・基礎研究、技術・実証研究、事業化を総合的に展開する北九州方式3点セットです。研究を実証研究へと格上げし、事業化に移すことができる基盤が整備されています。行政も、事業性調査や技術開発への支援、行政手続きの円滑化というワンストップサービスを展開していることも特徴として挙げられます。さらに、工業地帯という側面から、動脈側の要望を汲み取りながら静脈産業を構築していったという点も、今後ますます重要となる動静脈連携のあるべき一つの姿を見せてくれています。

写真:北九州市の環境産業振興の戦略(出典:北九州エコタウン事業パンフレット

主な視察先例

下記は主な視察先例です。

北九州市エコタウンセンター

写真:北九州市エコタウンセンター内の学習コーナー

北九州エコタウンの「玄関口」として、エコタウン事業や次世代エネルギーパークの紹介、エコタウン内企業の視察コーディネートなどを行っています。全国のエコタウンで最も早く開始しており、充実度も高いことでも知られています。

企業はもちろんのこと、行政関係者や学校の社会科見学まで広く受け入れています。
また、環境関連技術や製品・サービスを保有する企業のブースを見て回ることができます。

写真:北九州市エコタウンセンター内の企業展示ブース

北九州エコタウンセンターによる施設見学

エコタウンセンターが実施するエコタウン内事業者の施設見学。リサイクル工場やエネルギー施設を見学することができます。現在のスケジュールは下記となっています。(最新のスケジュールはホームページでご確認ください。)

1. 北九州市エコタウン事業の全体概要説明(45分)
2. リサイクル工場の見学(曜日によって見学する工場が異なります)
3. 風力発電
*2,3合計で1時間程度

また、学校教育支援の一環として、リモート工場見学も実施しているそうです。企業向けも実施していますので、ご興味のある方はエコタウンセンターまでお問い合わせください。

CO-MIT取材班が訪問したのは木曜日。自動車リサイクル工場(西日本オートリサイクル株式会社)を見学しました。同社は日本初のシュレッダーレス方式での使用済自動車の解体業。車製造とは逆の手順で解体し、素材ごとに分別して回収されることで、水平リサイクル(Car to Car)を可能にしています。シュレッダー型と比較して、CO2排出を抑制することに加え、シュレッダーダストを発生させないことも大きな特徴です。実際に車体が手解体される様子には迫力があり、参加者から歓声が上がりました。

他の曜日では、OA機器リサイクルや蛍光管、ペットボトル、家電等のリサイクル工場が見学できます。

リサイクル工場見学の後は、10基が並ぶ風力発電を間近で見学することができます。
(10基あった風車は年内に全て撤去されます。9月21日現在4基。)
今後は響灘ウィンドエナジーリサーチパークの風車見学となります。

写真:自動車部品の展示(西日本オートリサイクル株式会社)

写真:エコタウン内の風力発電(2023年内で撤去されます)

響灘ビオトープ

写真:響灘ビオトープの様子

廃棄物処分場跡地にできた日本最大級のビオトープ*として、2012年にオープン。人間が作った埋立地に約30年かけて植物が生え、昆虫やそれらを捕食する生き物が集まりました。メダカやコウトンボ、チュウヒなど絶滅危惧種に指定されている生き物の姿も。まさにエコタウンを象徴するような場所ともいえます。

ビオトープ:広義には「生き物の暮らす場所」の意。工業・都市化により失われた生態系を復元させ、本来その場所で生息する生物が暮らすことができるようにした場所のこと。

北九州市の今後

北九州市は、2008年に環境モデル都市、2011年に環境未来都市、2018年にSDGs未来都市に選定されています。市のSDGs戦略(ビジョン)は、「『真の豊かさ』にあふれ、世界に貢献し、 信頼される『グリーン成長都市』」です。

同戦略は、2030年のあるべき姿のイメージを5つにまとめています。

1. 社会課題解決につながる「持続可能なビジネスが生まれ、育つまち」
2. ダイバーシティの推進による「みんなが活躍できるまち」
3. SDGsを踏まえた教育の実践による「未来の人材が育つまち」
4. 環境と経済の好循環による「ゼロカーボンシティを目指すまち」
5. アジア諸都市を中心とした「世界のグリーンシティをけん引するまち」

今後北九州市は、人口減少に加え、さらなる産業構造の変化による製品出荷額のシェア低下に直面するなどの課題に直面します。そんななか、上記5つのイメージすべてにおいて、北九州市は、環境先進都市としてこれまで培ってきた基盤を大きな強みとすることができるでしょう。市としては、さらなる資源化・ごみの減量化、レアメタル等のリサイクル技術の高度化に取り組み、地域循環共生圏を構築したいとしています。

また、「北九州グリーン成長戦略」でも、サーキュラーエコノミーは「脱炭素という経済活動のルールチェンジの中で産業の競争力を高める」ことに寄与するものとして位置づけられています。

こういった点からサーキュラーエコノミーは北九州市のリソースを生かしたさらなる環境・経済・社会的価値の増幅につながる可能性を秘めており、循環型事業に取り組む企業はビジネス機会を伺うことができるでしょう。そのため、エコタウンや市の今後の取り組みを現地で確認する意義は大きいと言えるでしょう。

研修やワークショップができる施設は?

北九州市内には多くの研修・会議施設があります。会議室.COMなどで検索すると良いでしょう。(小倉駅前の貸会議室はこちら)また、北九州市エコタウンセンターは、環境学習や交流活動に利用してもらうため、施設の貸出も行っています。 詳しくは同センターにお問い合わせください。視察直後に研修やワークショップを組み合わせ、記憶の新しいうちに振り返りや自社戦略を検討することで、視察により即効性をもたせることができるでしょう。

北九州市視察者に向けたメッセージ

最後に北九州市エコタウンセンター垣迫大志次長より、視察者に向けて下記のメッセージをいただきました。
「北九州市エコタウンセンターがある響灘地区は様々なリサイクルが行われている国内最大級の資源循環拠点であるとともに、社会課題に応じた新たなリサイクル等も行われています。また、大規模な洋上風力発電所の建設がすすむなど益々環境先進地としての色を強めており、国内外から大きな関心を集めています。研修先をお探しでしたら気軽にご相談いただけたらと思います 」

「エコタウンと言えば北九州市」という声をよく聞きます。自社のサーキュラーエコノミー移行に向けてヒントが得られるに違いありません。見学等については、北九州市エコタウンセンターまでお問い合わせください。

お問い合わせはこちら

那須 清和(なす きよかず)
サークルデザイン株式会社 代表取締役
大学卒業後、教育関連企業、経営⽀援団体を経て、サーキュラーエコノミーに特化した共創・コンサルティング・リサーチ・研修業務 などを⾏うサークルデザイン株式会社を2020年7⽉に設⽴。2004年に実施したエクアドルでのコミュニティ紛争のフィー ルドワークをきっかけに、環境再⽣と⼈間のウェルビーイング向上の同時追求に関⼼を抱き、後にサーキュラーエコノミーを追求・推進するようになる。 また、Circular Economy Hub 編集⻑(ハーチ株式会社運営)、⼀般社団法⼈⽇本サステナブルサロン協会理事、サステナブルジャパンプロジェクトタスクフォースメンバーなども務める。
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