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【シカソンサミット参加レポート】ゼロカーボンシティ宣言のまち北海道鹿追町。バイオガスプラントをはじめとした取り組みから、サーキュラーエコノミー移行に向けたヒントを探る

北海道鹿追町
視察OK

2024.3.14

【シカソンサミット参加レポート】ゼロカーボンシティ宣言のまち北海道鹿追町。バイオガスプラントをはじめとした取り組みから、サーキュラーエコノミー移行に向けたヒントを探る
北海道鹿追町。人口約5,000人の町は、ゼロカーボンシティ宣言のまち(第1回脱炭素先行地域)、日本ジオパークのまち、国立公園のまち、SDGs推進のまち、過疎のまちとして知られています。バイオガスプラントを核とした「鹿追型ゼロカーボンシティ」が全国から注目され、多くの方が視察に訪れるようになりました。 そんな鹿追町は、ワーケーションプログラム「シカソン」を2022年から展開しています。2023年11月20日から22日にかけて、訪問した方と「環境」をテーマに一緒にマラソンを走るかのように学び考えるショートステイプログラム「シカソンサミット」を開催。参加者12名(セミナー参加者35名)とともに、鹿追町を舞台に持続可能な未来について考える時間を過ごしました。同サミットのレポートを通じて、鹿追町のサーキュラーエコノミーを学ぶワーケーションについてご紹介します。

写真:左から鹿追町企画課課長 草野礼行さん、同課係長迫田明巳さん、一般社団法人Enの代表理事 正保縁さん

WHAT:何が学べる?

今回のシカソンサミットでは、各自のワーク時間に加えて、下記「環境」について考える豊富なプログラムが展開されました。

●鹿追町内の環境を中心とした主要な視察先を訪問
●鹿追町内のキーマンと少人数でディスカッション・ヒアリングする「町内キーマンセッション」
●町内事業者と交流する交流会
●参加者による情報交換ワークショップ
シカソンサミットの特徴としては、町民や町内事業者と直接ヒアリング・ディスカッションができる機会が多いこと。町における差し迫った課題を鹿追はどう捉え解決に向けた道を歩んでいるのか、直接肌で感じることができます。また、参加者が保有するリソースがマッチすれば、それらを十分に活かすことのできる機会としても活用できる可能性もあります。何よりも、サーキュラーエコノミー移行を含めた持続可能な社会づくりに向けて、その「地球に優しい循環型農業」や「人に優しい町づくり」における先進地域である鹿追町から学べることも魅力となっています。

シカソン実施の背景について、同事業を実施する鹿追町の迫田さんは、「鹿追町で繋がりを生み出したい。シカソンは規模としては小さいけれど面白かったと思っていただきたい」と話します。シカソンの事業を委託され、自らも移住者である一般社団法人Enの代表理事 正保縁(しょうほゆかり)さんも「観光閑散期を盛り上げたいということもありますが、思いを共有できるような企業や個人と繋がっていきたい」と続けます。

写真:鹿追町企画課 係長 迫田明巳さんによる冒頭オリエンテーション

写真:一般社団法人Enの代表 正保さん

【参考】鹿追町が目指すワーケーションとは?
1. 思いを共有できる企業と繋がりたい
2. 特定少数の企業と繋がりたい
3. 観光閑散期を盛り上げたい

シカソンサミットで訪問した視察先

シカソンサミットで訪問したサーキュラーエコノミーに関連する施設をご紹介します。

写真:鹿追町企画課 課長 草野礼行さんが視察案内

バイオガスプラント(鹿追町環境保全センター)

写真:バイオガスプラント(鹿追町環境保全センター)の外観

鹿追町は、基幹産業である農業と観光の共生を目指し、家畜排泄物や生ごみ、下水汚泥の適切な処理を図り、バイオマスの有効活用を行うバイオガスプラントを運営しています。鹿追町環境保全センターは、「バイオガスプラント」「堆肥化プラント」「コンポスト化プラント」で構成されており、家畜や生ごみなどのバイオマスを嫌気性微生物が分解することで発生するバイオガスを製造・収集する施設です。バイオマスは電気や熱エネルギーとして町内で利用され、余剰分は売電。さらに、嫌気性発酵後の消化液は有機質肥料として酪農家や農家に年間数万トン還元されています。

たとえば、同センター内の中鹿追施設では、乳牛1,900頭(94.8t)に相当するふん尿が処理され、一般家庭600戸分(約6,000kWh/日)を発電しています。なお、発電した際に生まれる熱を有効活用して、チョウザメの養殖・マンゴー栽培・さつまいも栽培を行っていることも注目に値します。さらに、バイオマスから水素を製造する「しかおい水素ファーム」事業を展開しており、こちらも視察希望が増えているとのことです。

写真:しかおい水素ファーム

写真:ふん尿を搬入の様子

ふん尿の循環利用は酪農や農業における悪臭対策にもつながるとともに、バイオマスとしての活用を通じて循環型まちづくり移行へ貢献しています。さらに、週2回一般家庭から生ごみを専用のごみ袋で回収、バイオマス原料とすることで、温室効果ガス排出減につなげています。これは、バイオガスプラントが酪農家や農家といった事業家だけはなく、一般町民との接続を果たしているとも捉えられます。農業や酪農を基幹産業とする鹿追町ならではの事業といえますが、地域性に応じて横展開可能な取り組みでもあると言えるでしょう。

鹿追町自営線ネットワーク

写真:鹿追町自営線ネットワーク

自営線とは、一般送配電事業者以外の主体が敷設する送電線のこと。現在、鹿追町では太陽光発電所の電気を公共施設10ヶ所へ供給しています。町では、自営線を「環境性」(年間363トンのCO2削減)に加えて、「防災性」(災害時における電力利用可能施設増加)「経済性」(年間1,000万円削減)「波及性」(他寒冷地自治体のモデル)になりうるものと評価。さらに、将来FIT売電機関が終了するバイオガスプラント由来の電気の受け皿としてもシステムが構築されています。

写真:自営線ネットワークの発電量表示(町民ホールにて)

とかち鹿追ジオパーク

写真:とかち鹿追ジオパーク外観

十勝で唯一のジオパーク*「とかち鹿追ジオパーク」。2013年にジオパークとして認定され、その後4年ごとに環境保全や教育などの活用状況が審査されます。つまりジオパークとしての価値向上に向け常に努力しつづけることが求められますが、同ジオパークは2回にわたる再認定を受けています。

*ジオパーク:「ジオパークは、地質学的重要性を有するサイトや景観が、保護・教育・持続可能な開発が一体となった概念によって管理された、単一の、統合された地理的領域です。 日本ジオパーク委員会は、ユネスコ世界ジオパークの基準に沿って日本におけるジオパークの審査、ユネスコへの推薦を行っています」(日本ジオパーク委員会の定義より)

とかち鹿追ジオパークは、火山・凍れ・命をテーマとして、鹿追町全域が対象。見どころである然別湖周辺では、火山灰と凍(しば)れで形成された地形により、低い標高帯でありながらも、高山の生態系が見られます。北海道石や日本最大級の面積を誇る風穴地帯、鹿追の発展を物語る廃線跡、然別湖だけに生息するミヤベイワナなど、鹿追町でしかできない体験が味わえる貴重なスポットです。

ジオパークの「入口」とも言える拠点「ビジターセンター」では鹿追ジオパークの概要を学ぶ場所として整備されています。同センターを起点として各地への旅に出かけると、より体験が深まること間違いなし。ネイチャーガイドツアーも提供されているので、鹿追町の自然が紡ぐ物語を味わい、サステナビリティ・サーキュラーエコノミーに取り組む内発的動機や事業のヒントを見出すのも良いでしょう。

写真:とかち鹿追ジオパーク金森晶作さんが案内(金森さんは元南極地域観測隊員という経歴の持ち主)

しかりべつ湖コタン

過去のワーケーションプログラムで、然別湖で課題となっている特定外来生物ウチダザリガニ駆除体験や、今担い手が不足している「しかりべつ湖コタン」*の製作体験もワーケーションのコンテンツに入れた事例もあるようです。こういった体験を通じて、生態系とビジネスとの接点やサステナブルツーリズムについて思いを巡らせることにもなるでしょう。

*しかりべつ湖コタン:コタンとは「村」の意。冬に60cm〜1mほどの厚さで覆われる然別湖を楽しもうと、アイスブロックでできた家「イグルー」によって構成される「村」。氷上露天風呂やアイスバーが人気だそう。

写真:しかりべつ湖コタンの様子(写真提供:鹿追町)

写真:しかりべつ湖コタンのイグルー(写真提供:鹿追町)

町内関係者や住民との交流

写真:講師トークセッションの様子(地元事業者が集結)

ワーケーションプログラム参加のメリットは、訪問地の事業者や住民の「リアルな声」を聞けること。シカソンサミットでもこの点は最も重要視することの一つとして、プログラムにふんだんに盛り込まれています。正保さんも「まちのキーマンの人の話を聞くことや、地元の方も参加する交流会は必ず含めるようにしている」と話します。その背後には、ワーケーションをワーケーションで終わらせない、まちづくりにつなげていく観点がありそうです。

「町内キーマンセッション」では、3-4名の参加者と町長のほか高等学校長、観光協会会長、とかち鹿追ジオパークスタッフ、鹿追町自然体験留学センタースタッフと約1時間程度にわたる対話の時間が設けられました。質問しても議論しても時間の使い方は自由。鹿追町の現状やそれぞれの想いなどに触れることができます。別途開催された交流会も、約30名ほどの町内事業者と参加者が交わる、双方にとって有意義な場となりました。

写真:キーマンセッションで話す鹿追町長の喜井 知己 さん

シカソンサミット主催者と参加者の感想

最終日にはシカソンサミット主催者と参加者がサミットを振り返るディスカッションの時間が設けられました。

●次回は合宿型研修を実施したい
●山村留学やジオパークなど30年以上にわたる鹿追町の蓄積に触れることができた
●これまで業務として関わったことのないワーケーションについて、講師や様々なプレーヤーと話をしていると、「こう思う」「こうしてみたらどうか」と考えが浮かんでくるので、人と会って刺激を受けることが一人で考え込むより色々と閃くものなんだと改めて感じた。
●ワーケーションを通して地域に根差して活動されている方や、鹿追町様の持続可能な取り組みに関しての興味が大きかった。

(鹿追町HPより抜粋:https://www.town.shikaoi.lg.jp/oshirase/2953/)

などのさまざまな感想が寄せられました。

感想の共有のみならず、鹿追町が町外と接点を持つためにどのような道筋を歩めばよいのかという点にも踏み込みました。この日も、鹿追町の環境への取り組み、とりわけゼロカーボンシティへの取り組みがワーケーションへもつながるという観点は重要であると共有されましたが、これは今後の鹿追町のゼロカーボンまたはサーキュラーエコノミーへ移行が環境軸だけではなく町の活性化にも貢献するものとして捉えられるのではないでしょうか。シカソンは、参加者にとってはサーキュラーエコノミーやサステナビリティについて学び自組織・地域に持ち帰ることができ、鹿追町にとっても「濃い関係人口」創出ができるメリットがあるという意味で大きな役割を果たしています。

写真:主催者・参加者から出た感想や意見の例(写真:グラフィックレコーディングは、参加者である一般社団法人サステナビリティ・ダイアログの牧原ゆりえ さんのご好意で作成)

研修やワークショップができる施設

鹿追町ではワーケーションができる施設が充実しています。下記は代表的な研修やワークショップができる施設です。

ピュアモルトクラブハウス

今回のシカソンサミットのオリエンテーションや情報交換ワークショップなどが実施された舞台です。一人でのリモートワークや研修などに活用でき、通常9時から22時までオープンしています。
https://www.town.shikaoi.lg.jp/shisetsu/art/puremolt/

鹿追町国際交流センター平成館

国内地域間交流と国際交流を目的に運営される同センターでは、リモートワーク実施が可能です。カフェスペースや会議室が設けられています。
https://www.town.shikaoi.lg.jp/shisetsu/art/heiseikan/

トマルカフェ鹿追

築60年の古民家を改修してできたカフェ・宿泊施設。イベントスペースの貸出も行っており、ワーケーションプログラムの全体研修などにも利用できます。
https://tomaru-cafe-shikaoi.com/

鹿追町視察者に向けたメッセージ

現状では、オープン型のシカソンサミットに加え、各企業や団体の要望に応じてクローズ型の研修もアレンジ可能とのことです。

鹿追町役場の迫田さんより、鹿追町視察者に向けたメッセージをいただきました。「シカソンがきっかけで初めて鹿追町に来たという方がたくさんいるのがまずは何よりもうれしいこと。このプログラムはお互いのつながりを生む単なるきっかけにすぎません。5年先か10年先かはわからないけれども、鹿追町や参加企業のお互いの連携で何らかの課題が解決されたときに、『そういえばシカソンに参加したことがきっかけだったよね』と。そんなプログラムになってくれればうれしいですね」

視察に関心のある企業や団体は下記よりお問い合わせください。

お問い合わせはこちら

那須 清和(なす きよかず)
サークルデザイン株式会社 代表取締役
大学卒業後、教育関連企業、経営⽀援団体を経て、サーキュラーエコノミーに特化した共創・コンサルティング・リサーチ・研修業務 などを⾏うサークルデザイン株式会社を2020年7⽉に設⽴。2004年に実施したエクアドルでのコミュニティ紛争のフィー ルドワークをきっかけに、環境再⽣と⼈間のウェルビーイング向上の同時追求に関⼼を抱き、後にサーキュラーエコノミーを追求・推進するようになる。 また、Circular Economy Hub 編集⻑(ハーチ株式会社運営)、⼀般社団法⼈⽇本サステナブルサロン協会理事、サステナブルジャパンプロジェクトタスクフォースメンバーなども務める。
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