最低賃金アップ時代において企業が行うべき施策とは?~人的資本経営とエンゲージメント強化戦略~

2025.9.11

最低賃金アップ時代において企業が行うべき施策とは?~人的資本経営とエンゲージメント強化戦略~
こんにちは。2025年度もあっという間に上半期が終了し、下半期へ突入しました。
上半期を振り返り、下半期は心新たに取り組んでいくぞ!と意気込んでいる方々も多いかと思います。

時期的に、4月と10月は国の施策において節目のタイミングで、特に10月は毎年最低賃金がアップされます。

10年ほど前から振り返ると、およそ全国平均が毎年20円台でアップするペースでした。最近では50円程度、今回は63円をベースに一番高い地域で80円ほど上がる予定で、急ピッチに国を挙げた賃上げが実施されています。80円の地域は準備期間も考慮され2025年10月からではなく2026年3月31日からスタート、と半年くらい準備期間がある状況で、これにはびっくりしました。

最低賃金アップを単なるコストアップと捉えるだけなのか、その他の付加価値も生み出そうと考えるのか。同じお金を出すなら単なるコストアップではない発想で考えてもらえれば、という想いから今回、お伝えしたいと思います。

最低賃金アップの背景と企業への影響

まず、最低賃金の引き上げが企業経営に与えるインパクトは年々大きくなっています。賃上げは従業員の生活を守るために不可欠である一方、中小企業にとっては人件費増大による利益圧迫が現実問題として存在します。とりわけ、人手不足の業界や地方企業では、最低賃金の上昇がそのまま賃金テーブル全体の見直しにつながり、既存の賃金制度や評価制度の再設計が避けられなくなっています。

しかし、この状況を「負担」として捉えるだけでは、企業の競争力強化にはつながりません。ここで重要になるのが、賃金アップを従業員エンゲージメントの向上や人的資本経営の推進と結びつける発想だと思います。

賃金アップをエンゲージメント施策の中心に据える

従業員エンゲージメントは、企業の生産性や離職率、さらには業績に直結する重要な指標です。近年はエンゲージメントサーベイやピープルアナリティクスといったツールの発達により、賃金や福利厚生の改善が従業員の意欲や定着率に与える影響を定量的に測定することが可能になっています。

たとえば、賃金アップを実施した際に、同時にエンゲージメント調査を行えば、昇給が「働きがいの向上」や「離職防止」にどの程度効果を発揮しているのかをデータで示せます。これにより、経営層に対して**人的投資のROI(投資対効果)**を明確に示すことができ、単なるコスト増ではなく「戦略的な投資」であると説明できるのではないでしょうか。

また、賃金アップは従業員へのメッセージ性も強い施策です。「会社が自分たちの生活や働き方を大切にしている」という安心感は、心理的エンゲージメントを高め、結果として生産性や顧客満足度の向上にもつながります。ただし、アップするためには人件費の原資も必要で、これをきっかけに、会社の経理・財務・会計、年間目標数値の意味、目的もしっかりと伝え、原資獲得のためにも日々最大限の生産性を求めて行っているのだ、という企業側のメッセージや想いを表現することが大事だと考えます。

ハイブリッドワーク時代の賃金アップとコミュニケーション強化

コロナ禍以降、リモートワークやハイブリッドワークが普及し、従業員同士や上司とのコミュニケーションが希薄になりやすい環境が増えました。このような状況では、賃金アップの効果も「ただ通知するだけ」では十分に伝わりません。

たとえば、昇給の決定を単なる給与明細の通知で終わらせるのではなく、オンライン面談や社内チャットで感謝の言葉や今後の期待を伝えることで、従業員はより強く「自分は組織に必要とされている」という実感を得られるようにもっていく。これは心理的安全性の向上にもつながり、エンゲージメント強化に直結すると思います。

特に若手社員やリモート勤務者にとっては、賃金だけでなくコミュニケーションの質が働きがいを左右する大きな要因となっています。賃金アップを契機に、1on1ミーティングや社内SNSでの称賛文化を強化する企業も増えており、ハイブリッドワーク時代の人事戦略として有効だと考えています。

健康経営・ウェルビーイングとの連動

企業が従業員の健康や働きがいを高めるための施策と組み合わせて実施するケースが増えています。たとえば、昇給に合わせて健康診断のオプションを充実させたり、ストレスチェックやカウンセリング制度を導入したりすることで、従業員の身体的・精神的なケアを強化する取り組みが注目されています。

さらに、福利厚生ポイントの付与額を増やし、スポーツジムやリラクゼーション施設の利用補助、健康食品の購入サポートといった選択肢を広げることで、従業員が自らの健康維持に積極的に取り組める環境を整備する企業も現れています。ちなみに弊社では、昨年11月からチョコザップに全員参加できるようにしています。ただ、最初はみなさん喜んで使用されていましたが、ここ最近では従業員の半数未満しか使用されていない状況だったので、2025年10月末を持って解約することにし、また別のサービスを導入しようとは思っているところです。

このような施策の組み合わせにより、単なる賃金の上昇だけでは得られない「経済的な安定」と「心身の健康」の両面からのサポートが可能となります。結果として、従業員の満足度向上やエンゲージメントの強化、離職率の低下といった効果が期待され、企業にとっては優秀な人材の定着や採用力の向上にもつながります。特に近年は、人的資本経営やサステナビリティ経営の重要性が増しており、人的資本情報の開示が義務化される流れの中で、このような取り組みは単なる福利厚生の拡充にとどまらず、企業価値を高める戦略的な施策として外部にアピールできる材料となります。

今後はAIやデータ分析を活用して、従業員の健康データやエンゲージメント指標と賃金・福利厚生施策の効果を可視化し、よりパーソナライズされた支援を行う企業も増えていくと考えられます。これにより、企業は従業員一人ひとりのニーズに合った施策を提供でき、従業員の「働きやすさ」や「働きがい」をさらに向上させることが可能になると考えています。

人的資本経営の視点から見た賃金戦略

今後ますます賃金はアップしていくと思いますので、人事担当者や企業経営者は賃金アップを「やむを得ないコスト」として処理するのではなく、企業の持続的成長を支える人的投資として位置づける視点が求められます。

• 賃金制度の見直しとエンゲージメント調査を組み合わせ、投資効果を可視化する
• ハイブリッドワーク時代に即したコミュニケーション施策を同時展開する
• 健康経営やウェルビーイング施策と連動させ、従業員の働きがいを総合的に向上させる

これらを統合的に進めることで、最低賃金アップは単なる負担ではなく、人的資本経営を加速させる絶好のチャンスとして仕掛けていくことが重要です。
2025年10月の最低賃金改定は、企業が賃金・働き方・健康経営を一体的に見直し、人への投資が企業価値向上につながることを示す契機となるでしょう。

そのためにもまずは売上や利益をアップさせ、無駄を省く。ますます商売の原理原則を突き詰めていくことの大切さと実践行動が求められる時代になったと考えるべきだと思います。労働力不足、人材不足、賃金アップ時代の中でAIの活用は待ったなしの状況であることはいうまでもない、というところですね。

下村 勝光(しもむら かつみつ)
MIRACREATION株式会社 取締役。社会保険労務士法人MIRACREATION 代表社員。
仕事を通じて「笑いと驚き」を提供したい!をコンセプトに、北浜にある大阪証券取引所ビル8Fを本拠地としつつ、日々テレワーク中。
「難しいことをおもしろくして」をモットーに、現場に即した具体的なアドバイスを受けられると経営者から人気を博しております。
生まれは茨城県、育ちは大阪。趣味はフルマラソンで何とか3時間28分台を目指しております。

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