育児や介護に配慮したサクセッションプラン(後継者育成計画)について

2025.8.19

育児や介護に配慮したサクセッションプラン(後継者育成計画)について
弊社のご支援先から相談される内容で、最近では採用力・定着力向上だけでなく、今いる社員の退職や休業リスクを考えた、後継者準備問題も増えてきております。

10月から育児・介護休業法がさらに改正され、後継者候補が休業する、というケースも増えてくるかと思います。そのような時代に向けての心構えを皆様にも作っておいてもらいたい、と思い、今回のテーマを設定し、ポイントをお伝えしていきたいと思います。

育児・介護との両立を前提に考えたサクセッションプランの重要性

近年、企業では経営層や重要ポジションの人材交代を計画的に進める「サクセッションプラン(後継者育成計画)」の重要性が高まっています。これは単なる人事の引き継ぎではなく、組織の持続的成長と安定運営を確保するための戦略です。特に少子高齢化が進み、人材確保が難しくなる中で、将来を担う人材を早期に発掘・育成することは不可欠です。

一方で、育児や介護といったライフイベントは、従業員のキャリア形成や勤務継続に大きな影響を与えます。従来は、こうした事情によりキャリアを中断せざるを得ないケースも少なくありませんでした。しかし、これからのサクセッションプランは、育児・介護との両立を前提に設計することが求められます。

例えば、後継候補者が育児休業や介護休業を取得する可能性を見込み、複数名の候補者を同時に育成する「プール型」の計画を採用することが考えられます。また、在宅勤務や短時間勤務といった柔軟な働き方を導入し、育児・介護を担う人材が継続して経験を積める環境を整備することも有効です。

さらに、サクセッションプランにおいては、候補者本人だけでなく周囲のサポート体制も重要です。例えば、プロジェクトや部署の運営をチームで分担する「共同リーダー制」や、職務の一部を委譲する「段階的引き継ぎ」により、長期的にスムーズな人材交代を実現できます。

結局のところ、サクセッションプランと育児・介護支援は、別々のテーマではなく、企業が人材を守り育てるための両輪です。ライフイベントを理由に優秀な人材を失わない仕組みを構築することこそ、これからの持続的成長の鍵となります。企業は「人をつなぎ、未来をつなぐ」視点で、人材育成と働き方改革を一体的に推進することが求められます。

10月施行の育児・介護休業法改正について

ここからは、育児・介護休業法改正に関連する内容について触れていきたいと思います。
2025年4月に引き続き、10月にも育児・介護休業法の改正が行われます。

まずは、人事労務管理では定評のある労務行政研究所から、企業の対応状況について調査を実施し、その結果が公表されていますので、その調査のポイントをお伝えします。

今回の改正で最も対応に苦慮しているとされるのが、2025年10月1日施行の「柔軟な働き方を実現するための措置」です。対象は3歳から小学校就学前の子を養育する従業員で、企業は以下5つの選択肢から2つ以上の措置を講じる義務があります。

1. 始業時刻等の変更
2. テレワーク等
3. 保育施設の設置運営等
4. 養育両立支援休暇の付与
5. 短時間勤務制度

4月時点で「既に実施している」企業は55.2%、「実施する措置が決定しており今後実施予定」は16.6%と、多くの企業で準備が進んでいます。

実際の措置の組み合わせでは以下が上位です。

• 43.4%:①始業時刻等の変更+⑤短時間勤務制度
• 24.7%:①始業時刻等の変更+②テレワーク等+⑤短時間勤務制度
• 7.7%:①始業時刻等の変更+②テレワーク等
• 6.4%:④養育両立支援休暇+⑤短時間勤務制度
• 3.4%:②テレワーク等+⑤短時間勤務制度

①+⑤の組み合わせが突出して多く、職種特性や業務形態により実際の選択肢が3つ程度に絞られるケースも多い状況です。未対応の企業は早急に社内議論を進める必要があります。

参照:改正育児・介護休業法への対応アンケート|一般財団法人 労務行政研究所
https://www.rosei.or.jp/attach/labo/research/pdf/000089328.pdf

育児・介護と仕事の両立の現状について

次に、ここからは厚生労働省から発表されている状況で3点、お伝えします。

男性の育児休業取得率

近年、社会環境の変化や法改正の影響で、男性の育児休業取得率が急増しています。厚生労働省の「令和6年度雇用均等基本調査」によると、取得率は以下の通りです。

• 男性:40.5%(前年30.1%)
• 女性:86.6%(前年84.1%)

女性は過去20年間ほぼ8割台で推移していますが、男性は平成29年度に初めて5%を超えて以降、上昇ペースが加速。特に直近2年間で大幅な伸びを示しています。背景には、産後パパ育休制度の創設や給付引き上げなどの制度面強化、若手労働者の価値観変化、社会的理解の浸透が挙げられます。

今後も取得率は上昇が見込まれ、職場設計や業務体制を「男性も育休を取得する」前提で整える必要があります。

参照:令和6年度雇用均等基本調査|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r06/01.pdf

介護休業取得率と課題

同調査では介護に関する取得状況も示されています。介護休業者が「あり」と回答した事業所は1.9%、介護休暇取得者が「あり」は3.6%にとどまり、育児に比べ極めて低い水準です。この数字が、制度を利用せず両立できている結果であれば問題ありませんが、介護離職につながっている可能性もあり、企業の介護離職防止施策強化が求められます。

2025年4月からは、介護離職防止のための雇用環境整備、個別周知・意向確認、情報提供が義務化されており、従業員状況の適切な把握と必要な取組みの実施が重要です。

参照:令和6年度雇用均等基本調査|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r06/01.pdf

若年層の仕事と育児の両立に関する意識

厚生労働省が実施した「若年層における仕事と育児の両立に関する意識調査」は、全国の15〜30歳の男女13,709人(高校生・大学生・若手社会人)を対象に行われました。主な結果は以下の通りです。

1. 共育ての意識:「共育てをしたいが社会や職場の支援が必要」64.8%

2. 性別役割意識:育休取得や家事・育児分担で「性別は関係ない」が約7割

3. 育休取得意向:若年社会人の7割以上が取得意向あり、その8割が1か月以上希望

4. 企業選びの基準:「仕事とプライベートの両立」を意識する若年層は約7割、一方で同割合が「両立に不安」を感じている

5. 理想の働き方:「仕事と家庭を両立できる」「柔軟に働ける」が上位。理想実現でモチベーション向上74.4%、未実現層は離職意向が24.3ポイント高い

6. 就活で重視する情報:1位「男性の育休取得率」、2位「育休取得者へのサポート体制」、3位「育児支援内容」

7. 求める支援策:「残業時間抑制」「在宅勤務活用」「有給取得促進」が上位

この結果から、若年層は性別にかかわらず育児と仕事の両立を重視し、そのための職場支援を企業に強く期待していることがわかります。

参照:若年層における仕事と育児の両立に関する意識調査|厚生労働省 共育プロジェクト
https://www.mhlw.go.jp/content/001527094.pdf

まとめ

サクセッションプラン(後継者育成計画)を策定する際、現代は育児・介護といったライフイベントへの配慮が欠かせません。
社員が重要な役職に就いていても、家庭の事情で一時的に離職や休職をする可能性は高まっています。そのため企業は、単一の後継者に依存せず、複数候補を同時に育成する「多層的な後継者プール」を確保することが必要です。

また、役割分担を柔軟に調整できるジョブシェアや副リーダー制の導入により、長期的な不在にも対応できる体制を整えます。
さらに、在宅勤務や短時間勤務といった柔軟な働き方の選択肢を拡充し、候補者がキャリアを中断せず成長できる環境を用意することも重要です。
加えて、育児・介護に関する制度やサポート情報を明確化し、社員と管理職双方に周知することで、計画的な人材交代が可能になります。

以上、言うのは簡単、やるのは困難、だと思いますが、参考になれば幸いです。

下村 勝光(しもむら かつみつ)
MIRACREATION株式会社 取締役。社会保険労務士法人MIRACREATION 代表社員。
仕事を通じて「笑いと驚き」を提供したい!をコンセプトに、北浜にある大阪証券取引所ビル8Fを本拠地としつつ、日々テレワーク中。
「難しいことをおもしろくして」をモットーに、現場に即した具体的なアドバイスを受けられると経営者から人気を博しております。
生まれは茨城県、育ちは大阪。趣味はフルマラソンで何とか3時間28分台を目指しております。

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