メンタルヘルス不調の現状

先日、厚生労働省から「令和3年労働安全衛生調査(実態調査)」の結果が公表されました。この調査は、労働災害防止計画の重点施策を策定するための基礎資料および労働安全衛生行政運営の推進に資することを目的として、周期的にテーマを変えて調査が行われているものです。
今回の調査における事業所に対する項目は、メンタルヘルス対策に関する事項、受動喫煙防止対策に関する事項、長時間労働者に対する取組に関する事項等の5つがありますが、以下ではメンタルヘルス対策に関する事項を確認しておきます。
(1)メンタルヘルス不調による休業者等
過去1年間(2020年11月1日から2021年10月31日)にメンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休業した労働者または退職した労働者がいた事業所の割合は10.1%(前年調査9.2%)となっています。このうち、連続1ヶ月以上休業した労働者がいた事業所の割合は8.8%、退職した労働者がいた事業所の割合は4.1%です。
(2)メンタルヘルス対策への取組状況
メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は59.2%(前年調査61.4%)となっており、これを事業所規模別にみてみると以下のようになっています。
500~999人 99.7%
300~499人 97.9%
100~299人 97.4%
50人~99人 92.9%
30~49人 70.7%
10~29人 49.6%
(3)ストレスチェックの実施状況
メンタルヘルス対策の取組内容(複数回答)として、ストレスチェックの実施を選択した割合は65.2%となっていますが、ストレスチェックの実施義務が課されていない50人未満の事業所をみてみると、30~49人では63.3%、10~29人では53.7%となりました。
メンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休業した労働者または退職した労働者がいた事業所の割合は10社に1社の割合となっていることから、現行の取組みにプラスした積極的な取組みが求められていると思います。
ただ、メンタルヘルス不調になる理由は人それぞれ様々のようですので、こうすればよい、という方程式のようなものは見つけにくいと思います。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/r03-46-50.html
よくいわれるメンタルヘルス不調の理由

不調になる理由として、例えば、職場なら昇進や昇格・配置転換などによる役割・地位の変化、上司や部下との対立・パワハラ・セクハラなどの人間関係のトラブル、長時間労働や人事異動などによる仕事の質・量の変化などが挙げられます。
また職場以外においては、家庭や人間関係などのトラブル、金銭問題、大切な人の病気などの自分以外の出来事、住環境や生活の変化などが挙げられます。
しかし、このような環境や出来事による外的な要因は、誰にとってもストレスを引き起こすとは限りません。同じ環境においても、ある人にとっては問題なく、別の人にとっては大きなストレスとなる場合もあります。
少し抽象的な表現にすると、自分が本来持っている普通・普段・日常から逸脱した状況によって負荷がかかり、「自分らしく仕事や生活ができない状況が継続すること」がメンタル不調の理由である、と言ってもいいのでは、と個人的に考えています。
「自分らしく」が大事

ここで「自分らしく」、という表現を出しましたが、人事労務管理上、最近特にキーワードになっていると感じています。例えば、新卒だけではなく中途採用の場面でも、会社の規模やステータスではなく、自分の価値基準に合致した社会貢献をしている企業へ就職・転職する方が本当に増えてきています。また、働き方の観点でいうと、育児・介護、プライベート、学び直すための時間作り等々、仕事一辺倒の生活ではなく、コロナ禍をきっかけに、何のために生きるのか、と言ったそもそも自分は人としてどうあるべきなのか、と言った価値観がかなり受け入れられる時代だと思います。
一昔前までだと、そんな大それたことを考えているって少し変わっているかも、という風潮があったかもしれませんが、今は違いますね。
前回の記事でも触れたように、昔の価値観での思い込みから脱却し、新たな価値観に自分の価値観を上書きしていく、あるいは自分が元々持っている価値観に改めて気づき、周知に合わせすぎることなく、自分らしく生きていく、という機運が高まっていると感じています。また、自分らしくを実現できると変なストレスからも解放され、健康なメンタル状態に近づいていくことだろうと思います。
ここで、本来の自分らしく、という点で、リトリート、という言葉がありますのでご紹介させていただきます。
「リトリート」について
リトリートの語源はリトリートメント(retreatment)。
本来は、避難所や隠れ家の意味を持っていますが、近年欧米では「日常生活から離れてリフレッシュする時間をもち、心身ともにリセットする」といった意味で使われていたり、仕事や家庭・人間関係などの日々の忙しい生活から離れ、自分だけの時間を持ち、リラックスして疲れを癒すことを指したりしています。
リトリートをするためには、今住んでいる場所や同じ環境から一時的に離れ、自分を癒すためだけに時間を過ごす、ことが大事だと言われています。
メンタルヘルス不調の状況で自宅療養されているケースは、それまでと同じ住環境には変わりはありませんので、リフレッシュしにくい面があるかもしれません。
会社を数ヶ月休職して療養に集中する場合、自分らしく過ごせる住環境や空間に身を投じ、じっくりと自分を見直したり、癒したりできる場所を見つけることも大事かと思います。場合によっては、手厚い福利厚生制度として、会社側がリトリート場所を本人に紹介してあげる、または一部費用負担し、早期復帰をバックアップする、といった施策もありかもしれないと思っています。
「LGBTQ+」について
あと、自分らしく、という点でもう一点触れておきたいのが、性的志向に関しての自分らしさ、ということでLGBTQ+についてです。
一般的な定義としては、「LGBTQ+」とはレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニングの頭文字をとった表現で、特にクエスチョニング、って聞きなれないかもしれません。
クエスチョニングとは、自身の性自認や性的指向が定まっていない、もしくは意図的に定めていないセクシュアリティを指し、新しい概念となります。それだけ多様性が加速的に進んでいる、ということだと思います。
この話題もかなり労務管理の現場や私の周辺、芸能人等からのカミングアウトにより、以前よりも日本国内では抵抗感が少なくなってきているのではないでしょうか。
私の中では、紅白歌合戦に出場している男性演歌歌手が自分らしく生きたい、という方針の元、女性らしさに関しての雰囲気も醸し出されていき、日本国内でも少しずつLGBTQ+への認知が進んだのではないか、と思っています。
また、私と同業者のコンサルタントもSNS上で、女性的な服装をして、休日を過ごされる情報がアップされ、オープンな時代が到来していることを体感しています。
また、驚くべきは、今回のロシア軍によるウクライナ侵攻では、ロシアのプーチン大統領がロシア内のLBGTQ+の人々の権利を制限してきていたため、もしウクライナがロシアの支配下に落ちれば、ウクライナ国内でも、似たような抑圧が生じるのではと懸念する声も多かった、というもの。
ウクライナ国内ではLGBTQ+の理解が進んでいるようで、その権利を守るためにも、LGBTQ+の方が義勇兵として戦闘に参加し、戦っている、ということを知っていますか。
それだけ、「自分らしく」生きる、ということは当たり前ではなく、価値あるものであり、大変貴重なものをあることを再認識すべきではないか、と考えています。
LGBTQ+に関する企業の取り組み事例

大手企業を中心に取り組みが進みつつあるようですが、概ね次のような取り組みをされているように思いますので参考になればと思います。
・会社内における仕事中の名称の使用許可
・健康診断の個別実施
・男女兼用のトイレの設置
・採用時のエントリーシートから性別記入欄をなくす
・社内ルール上の配偶者の定義に同性パートナーも含める
・福利厚生や慶弔制度において同性パートナーも対象とする
・服装規定を見直し、性別特有の服装を強制しない
・LGBTQ+についての理解を促進するための社内研修を実施
・性別適合手術に対する休暇制度の導入
・社内での相談窓口の設置
現時点では一般的な取り組みにはなっていませんが、徐々に広がっていくものと思われますので、着手できそうな点からご検討を始められてはいかがでしょう。
まとめ
自分らしく生きていくために、まずは自分を知る、そして自分を受け入れてくれる場所やコミュニティーに身を置くことで、自分が本来望んでいる生き方、をしていく。お金やステータスではない、これから重んじられる価値観、世界観がある、ということを知っていただくことで、皆様の生き方やお仕事のお役に立ったり、幅が広がったりすれば嬉しいな、と思うところです。
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