2025年の春闘情報と賃金・退職金事情について~採用力定着力向上に向けた賃上げの秘策~ 2025.2.20 人事・総務向け 労務管理 経営層・管理職向け 計画・準備 こんにちは。2月上旬の大寒波もなんとか通りすぎ、いよいよ桜のシーズンに向けた1ヵ月でワクワクしております。 3月は我が家5人家族のうち4人が誕生日を迎え、その都度ケーキを食べるのでブクブクする時期でもありますが、年に1回くらいはいいかな、と自分に甘えを許す時期でもあります。 また、毎年のケーキシーズンと同時に、この時期はご支援先の昇給金額や制度の見直し・構築に取り組む追い込み時期でもあり、結構ドタバタしております。 皆様も毎年恒例の、というものがいくつかあろうかと思いますが、人事ご担当者からすると人不足時代に、人材の採用力・定着力につながる企画を考えて会社に提案し、実行に移していく、という今後ますます難易度が高まる業務に対応する中、特に昇給や賞与のあり方を経営者にも機嫌良くご納得いただき、社内従業員の方々にも納得してもらえるような施策をどのように打ち出すべきか、悩まれている企業様も多いのではないでしょうか。 今回は、今年の春闘情報も含め、私の思う今後の方向性をお伝えし、お悩みを少しでも解決できればと思うところです。 春闘とは 労働組合が企業に対して行う賃上げなどの労働条件の交渉のことをいいます。2月から3月にかけて交渉が行われるため「春季闘争」を略して春闘と呼ばれます。 目次 2025年の日本における春闘情報について 都内中小企業の賃金・退職金事情 企業が考えるべきこと まとめ 2025年の日本における春闘情報について ネットや新聞紙上を確認すると、前年の高水準な賃上げを継続する方向で進められていると思われます。主な特徴と要求内容は以下の通りです。 賃上げ要求 連合:賃上げ要求を「5%以上」とする方針を示し、中小企業の労働組合に関しては「6%以上」を要求 国民春闘共闘委員会:「月3万2,000円以上、時給200円以上(10%以上)」の賃上げを求める UAゼンゼン:正社員6%・パート7%の賃上げ率を要求方針の目安として提示 自動車総連:月1万2,000円の賃上げ要求の目安を示す 金属労協:月額1万2,000円以上のベースアップを求める方針案を発表 ここにきて、10,000円オーバーの数字が当たり前のように見受けられるようになっている点は驚きです。 春闘の見通し ・賃上げ率は高水準を維持するものの、2024年のような加速感は欠く見通し ・第一生命経済研究所の予測では、2025年の春闘賃上げ率を4.80%と予想(厚生労働省ベース) ・ベースアップは3.0%程度(2024年:3.5%程度)と予想される 重点項目 ・非正規労働者や女性労働者の賃上げを重視。 ・中小企業との賃金格差是正に焦点 ・年間休日数の増加(自動車総連:121日から126日へ) 個人的には、国が思い切った年収の壁引き上げをしてくれないと、特に非正規労働者の賃上げをしたいけどできない、というジレンマで、なかなか思うように進まないと思っていますが、そもそも国は非正規、という表現をなくす、と言っていますので、壁を使って正社員化を進めたいという背景は改めて認識しておいても良いと思います。 都内中小企業の賃金・退職金事情 ここまでは春闘、というどちらかと言うと大手企業の方向性についての情報をお伝えしました。 次に押さえておきたい情報として、中小企業を対象とした賃金調査ではもっとも信頼性が高いとされる東京都の「中小企業の賃金・退職金事情」情報です。 「令和6年の調査結果」毎年、都内中小企業(従業員数10~299人)における賃金等の実態を調査しているものです。 【調査結果の概要】 1. 所定時間内賃金は357,690円、所定時間外賃金は36,560円 2. 過去1年間に定期昇給を実施した企業は78.0%、ベースアップを実施した企業は58.4% 3. 過去1年間の賞与は840,128円 4. モデル退職金(定年時)は高校卒974万円、大学卒1,149万円 5. 再雇用制度における最長雇用年齢を70歳以上としている企業の割合は35.1% 調査結果の詳細は、以下の関連リンクをご覧ください。 令和6年「中小企業の賃金・退職金事情」調査結果について|東京都 https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2024/12/23/07.html 企業が考えるべきこと 上記金額情報を踏まえていただきつつ、自社はどのように考えていくべきか、についてお伝えします。 1. はじめに 2025年4月以降に昇給を検討している企業にとって、賃金改定の方針を適切に定めることは、従業員のモチベーション向上や企業の成長に直結する重要な要素であることを再認識しましょう。下手すると退職につながります。 2. 昇給の目的を明確にする 昇給を実施する際には、まずその目的を明確にし、従業員の皆さんへ丁寧に説明することが重要です。 主な昇給の目的として、以下が挙げられます。 物価上昇への対応:インフレによる実質賃金の低下を補う。 業績向上の還元:企業の利益増加を従業員へ還元し、ロイヤルティを高める。 人材の定着・確保:市場競争力のある給与体系を維持し、優秀な人材を引き留める。 パフォーマンスの評価:成果を正当に評価し、社員のモチベーションを向上させる。 昇給実施時には上記目的を自社流の表現や文章で社内周知を合わせて実施しましょう。単に給与明細を見たら基本給が上がってた、という状況は避けたいものです。 3. 昇給実施時の重要なポイント ① 昇給原資の確保 昇給を実施するためには、財務面での準備が必要です。売上や利益の見通しを踏まえ、昇給に充てられる予算を決定しましょう。昇給原資の確保には以下の方法があります。 ・コスト削減による原資の捻出 ・価格改定や売上向上施策の実施 ・業績連動型昇給の導入 ・賞与回数の見直し:年2回の賞与を年1回に減らし、昇給原資を確保することで、年1回の昇給を年2回に増やす。これにより、給与の安定性を高めつつ、社員のモチベーションを向上させることが可能。また、昇給頻度を増やすことで月給を増加させ、競争力のある給与体系を提供し、採用力の向上にもつながると考えられる。 特に、賞与回数を年2回→1回にして月給に原資を回す、というケースが今後増えてくるとおもいます。それと合わせて、おすすめとしては昇給回数を年1回から年2回に増やす。1回あたりの昇給金額はこれまでの昇給金額の50%−60%程度にする。 このあたりがやり方の王道になるのでは、と思っているところです。 年1回の賞与で年間の業績に対する精算を行う。年2回の昇給のうち、1回は今後の日本が取り組みを強化する毎年10月実施の最低賃金UPに対応した全体的な賃金見直しを行い、もう1回は通常の昇給を行う。従業員目線としては、賞与は年1回になったものの、うちの会社は年2回昇給がある、というのはプラスの論点になるはずです。 ご担当者目線ですと、賞与対応が年1回、と事務作業が減った分、昇給作業に時間がかかる、ということになります。 最低賃金UP対応の昇給作業は、各自の評価は加味せずに最賃UP分を単純に反映させる、といった効率化ができる可能性はあろうかと考えてはおります。 ② 昇給ルールの策定 昇給の基準や方法を明確にし、公平性を保つことが重要です。具体的には以下のような要素を考慮します。 固定昇給:全員一律に昇給する方法(例:基本給の〇%を引き上げ) 能力・成果評価型昇給:人事評価に基づき昇給額を決定する 市場価値ベースの調整:業界相場や競争環境を考慮した昇給 ③ 昇給対象者の決定 全社員を対象にするか、一部の優秀な社員に限るかを決めます。職種や役職ごとに適切な昇給を設定し、不公平感が生じないようにすることがポイントです。 ④ 従業員への説明 昇給の意図や基準を従業員に明確に説明することで、納得感を高めることができます。特に評価基準が曖昧な場合、不満を招く原因になるため、十分な説明を行いましょう。 まとめ 2025年4月以降の昇給を成功させるためには、財務状況の把握、明確な昇給基準の策定、従業員の納得感を高める説明が不可欠です。 特に、賞与回数の見直しを活用することで、安定的な昇給原資を確保し、年2回の昇給を実施するケースは増えてくるのでは、とご支援先企業様の反応を見ていても思うところですので、ぜひご検討いただければと思います。 下村 勝光(しもむら かつみつ) MIRACREATION株式会社 取締役。社会保険労務士法人MIRACREATION 代表社員。 仕事を通じて「笑いと驚き」を提供したい!をコンセプトに、北浜にある大阪証券取引所ビル8Fを本拠地としつつ、日々テレワーク中。 「難しいことをおもしろくして」をモットーに、現場に即した具体的なアドバイスを受けられると経営者から人気を博しております。 生まれは茨城県、育ちは大阪。趣味はフルマラソンで何とか3時間28分台を目指しております。 関連記事 >【2025年】押さえておきたい人事労務関連の主な法改正!育児・介護休業法の改正、雇用保険法の改正他 >形ばかりの人的資本経営からの脱却!人事労務担当者の7月繁忙期の先にある重要ポイント >2025年卒採用の本格化に向けて知っておくべき「従業員の本音」について CO-MITでは、様々な目的から全国で研修・合宿施設の検索が行えます。 >研修合宿施設検索サイト「CO-MIT(コミット)」で施設検索する! また、ご希望の研修合宿を一括手配する「専門家に相談」サービスもご用意しております。 ホテルや研修センターをはじめ、全国のさまざまな施設と緊密に連携。研修や合宿の目的・日時・参加人数などを踏まえ、プロの視点から最適な施設および備品等の選定・提案・手配を進めます。 ぜひお気軽にご利用ください。 > 専門家に相談する! 記事一覧へ
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