転勤辞令のリスクと対応策、その他の労働時間管理について~リモートワークやワーケーション普及による意識の変化~

2022.8.4

転勤辞令のリスクと対応策、その他の労働時間管理について~リモートワークやワーケーション普及による意識の変化~
コロナ禍から少しは解放され、子どもたちも夏休みを満喫し、本来の8月、9月の姿が戻りつつある雰囲気が出てきている中、今度は第7波だけでなく第8波への警戒をせざるを得ない、ということで、私も少々コロナ警戒疲れが出つつある今日この頃です。
4月からスタートした新年度もそろそろ折り返し地点を迎え、組織内でも配置換えや人事異動等を行い、限られたメンバーで生産性を上げるために新たに動き出すタイミングでもあろうかと思いますので、今回は「転勤」について考えてみたいと思います。

意識調査から見る、転勤に対する意識の変化

リモートワークの進展もあり、転勤に関する意識が変化しつつあるようです。
会社側としてはこの意識の変化を知っておかないと貴重な人材の流出を招くことになりますので、是非確認いただきたいのが、エン・ジャパンが行った「転勤に関する意識調査」になります。この調査は同社の『エン転職』を利用するユーザーを対象に実施されたもので、有効回答数は10,165名となっています。

まず、「今後、もしあなたに転勤の辞令が出た場合、退職を考えるキッカケになりますか?」という質問に対する回答は以下のようになっています。なお、( )内は2019年に行われた同調査の結果ですので、比較してご覧ください。

なる 36%(31%)
ややなる 28%(33%)
どちらともいえない 23%(26%)
あまりならない 6%(7%)
ならない 7%(3%)

このように「なる」と「ややなる」の合計は64%(36+28)となります。なお、この比率は20代・30代では71%、40代以上では60%となっており、30代以下では転勤や転勤の辞令が退職のきっかけとなる可能性がより高いということが明らかになっています。なお、2019年の前回調査と比較すると、30代で「なる」との回答が、33%から41%に急増していることが印象的です。
そして、「今後、もしあなたに転勤の辞令が出た場合、どう対処しますか?」という設問に対しては、「条件に関係なく拒否する」という回答が19%から26%に増加しており、今後、従来以上に転勤拒否のトラブルが増加することが懸念されます。

拒否する、という理由の上位3つは

①「配偶者も仕事をしているから」
②「子育てがしづらいから」
③「親の世話・介護がしづらいから」

ということで、①については、共働きが増えていることにより、家事の分担問題や無理して転勤を受け入れてまで今の会社に止まらなくても、配偶者がある程度稼いでいるから転職活動の時間的・精神的ゆとりがあり、何とかなるだろう、という気持ちが増えているのではないかと考えています。
②については、核家族化が進んでいる中で配偶者のいずれかがいなくなると考えるだけで日々のオペレーションが回らなくなりそうだから、という気持ちが増えているのではないか、③については高齢化のために親の世話・介護に対面するケースが増え、少子化により兄弟も減り、自分が何とかしなくてはならない、という状況の方々が増えているのでは、と考えています。

【参考】エン・ジャパン「エン転職」1万人アンケート(2022年6月) 転勤に関する意識調査
https://corp.en-japan.com/newsrelease/2022/29780.html
エン・ジャパン「1万人が回答、(転勤)に関する意識調査-「エン転職」ユーザーアンケート(前回調査:2019年10月24日)

企業側として上記データを踏まえ、転勤辞令を発令することに二の足を踏まざるおえないケースも増えてきそうですが、人員配置の見直しによる生産性向上を考える上で、何とかしなくてはいけません。

そこで出てくる発想としては、長期出張やワーケーション、対象者のローテーション、ということで、あくまで本拠地は今のままとし、業務場所が遠方になっても本拠地に帰りたい時には帰っても良いルールとする、帰省旅費を支給する回数も多く企業は月に1回か2回ですが、最大で週1回程度は認めてあげる、一人だけでなく複数人で持ち回りの対応をする等、一人に集中させるのではなく、あくまで分散型の組織対応、ということが今後求められるのでは、と思います。
対象となる場所によっては、休日もその場所でうまく過ごせる、いわゆる「ワーケーション」により、企業側・従業員側の負担も軽減しながら心身ともに健康的に働いたり休んだりする、というスタイルを考えていくべきかと思います。

企業向けワーケーションの普及について

確かにワーケーションという言葉は一般化し、ある程度の期間は経過しましたが、まだ普及しているとは言い難い状況ではないでしょうか。
そのような中、経団連がワーケーションの導入を促進するため、「企業向けワーケーション導入ガイド」を制作し、ホームページで公開しました。ワーケーションの基礎を学んだ上で、実施事例やモデル規程を確認することができる、とても良い情報が詰まっておりますので是非チェックしてみてください。

【参考】日本経済団体連合会「企業向けワーケーション導入ガイド」
http://www.keidanren.or.jp/policy/2022/069.html

リモートワークが増えたことによる労働時間の管理

労働時間管理の状況

コロナ禍でリモートワークの導入が加速し、自宅や外出先からでも簡単に打刻することができるツール、アプリが開発されてきましたが、そもそもリモートワーク時は労働時間管理を行なっていない、あるいはみなし労働時間制度としている、または、◯分単位で始業時刻と終業時刻を入力させ、厳密に労基法が求めている1分単位での時間管理を行なっていないという企業様が多いのも実情です。

しかしながら、これまでとは異なり外出時でも労働時間を管理することができるツールが開発されていることから、そもそも「時間管理を行なっていない」は論外ですが、「時間管理ができない」という言い分も通らなくなる、という時代がすぐそこに迫っていると考えられます。
また、先日もニュースで取り上げられましたが、日々の残業時間のうち、5分未満を切り捨てて支給していたものを、1分単位でカウントし直し、その結果、20億円弱の未払い残業代精算をおこなった、という飲食系企業もあります。
労働者側もそのニュースは知っている可能性も高く、ますます厳密な管理が問われる状況になっている、と想定しておくべきだと思いますので改めて1分単位の残業時間管理について触れておきます。

1分単位の残業時間管理

労基法では、原則として残業時間は日々1分単位で管理しなければなりません。しかし、例外的に残業時間を計算する時に、日々の1分単位を合計し、1か月分の合計残業時間を計算した結果、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に繰り上げて計算するのであれば、30分未満の残業時間を切り捨てることが違法とならない、という通達が発せられております。
これは、必ずしも労働者の不利益につながるものではないこと、また残業代計算の事務を簡略化するメリットも存在するため、労働者の同意があれば違反とは取り扱わないとされてきました。この点についてはご承知の方も多いかと思います。

しかし、勤怠管理システムの開発、導入に伴い、そもそも外出中であっても簡単に打刻することができ、また1分単位での残業時間の管理も容易になってきました。そのため、これからは上記対応(30分未満切り捨て)は認められず、1分単位で正確な残業代を支給することが求められるかもしれません。
一部の弁護士さんからは、そのような方向になるのではといった話もあります。
また、例えば営業社員のように外出が多い、リモートワーク勤務でそもそも出社する必要がない従業員であっても、どこで仕事をしていても簡単に労働時間を管理することができるため、いわゆる「事業場外みなし労働時間制」もこれから認められなくなる可能性も十分にあると思いますのでご注意ください。

まとめ

転勤に対する意識や労働時間管理について、時間の経過とともに「変化」しつつある状況であることを知り、その変化に正しく対応するためにも、色々と試していくことが重要です。
難しそうだけど、とりあえずやってみれば意外に簡単にできるようになった、と問題をクリアされていく企業様を多くみておりますので、今回の記事を少しでも参考にしていただきながら、逃げずにチャレンジしていただければ幸いです。

下村 勝光(しもむら かつみつ)
MIRACREATION株式会社 取締役。社会保険労務士法人MIRACREATION 代表社員。
仕事を通じて「笑いと驚き」を提供したい!をコンセプトに、北浜にある大阪証券取引所ビル8Fを本拠地としつつ、日々テレワーク中。
「難しいことをおもしろくして」をモットーに、現場に即した具体的なアドバイスを受けられると経営者から人気を博しております。
生まれは茨城県、育ちは大阪。趣味はフルマラソンで何とか3時間28分台を目指しております。

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