最低賃金上昇時代の納得度の高い制度構築について

2022.9.7

最低賃金上昇時代の納得度の高い制度構築について
6月頃からスタートした猛暑・酷暑。暑い日が続いていましたが8月のお盆を過ぎ、甲子園の決勝が終わると、秋の香りがやってくるものですね。日本は四季があるから良い、というお話を聞きますが、同じ国でも季節変われば景色や情景、そして我々の気持ちも変わる、ということで、飽きやマンネリになりにくく、刺激を受けやすい国ということができるのかな、と思っています。

今年も最低賃金が10月にアップしますが、これまでに例のないレベルでの上昇で、来年もさらにアップするのでは、といった観測すら既に出ています。私の感覚としても、今年をきっかけに、日本としては本気で賃金を上げていくモードに突入し刺激的な賃金支払いが今後行われていくのでは、と思っています。

若手社員の転職に対する意識の変化

では今回まずお伝えしたいのは、人材不足も相俟って、転職市場が活性化している中、パーソル総合研究所の「働く10,000人の就業・成長定点調査」を見ると、若手社員の転職に対する意識が大きく変わっていること、についてです。
以下ではその変化について取り上げます。

以下は、20代前半社員の転職に対する意識についての調査結果を2019年と2022年で比較したものです。

2019年→2022年
46% → 60% 短期的に見て収入が上がる
50% → 65% 転職を機に昇進・昇格がしやすい
46% → 67% 転職先では将来、昇進・昇格がしやすい
58% → 77% 新しい人脈が広がる
65% → 78% 人材としての市場価値が高まる
64% → 78% 積極的に(転職を)していく方がよいことだ

このように転職に対するイメージが非常にポジティブなものとなっています。バブル崩壊後のリストラの時代に成長し、終身雇用が幻想であるとの想いが強い世代であり、また人生100年時代となり、汎用的なスキルを獲得し、人材としての市場価値を高めることが不可欠だと考えている傾向がこのような結果に表れていると考えられます。

(参照:パーソル総合研究所:「働く10,000人の就業・成長定点調査」)
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/spe/pgstop/2022/

ちなみに私が社会に出た頃(約25年ほど前)は、「転職」はケツを割ったやつ、ということでマイナスイメージが強かったです。私はその時代に、大学を出て30歳までの間で4回転職しました。(苦笑)
自分としては学生時代から士業やコンサルタントを目指している中で、ステップアップのつもりで転職をし、転職するたびに年収も上がり、やりたい仕事に繋がっていき、テンションも上がっています。
当然、今が一番幸せで、楽しい毎日を送っていますが、更なる刺激を求めて日々アンテナも貼っているところです!

2022年10月からの最低賃金アップで良く相談を受けること①パート・アルバイトの働き方

この10月から最低賃金が日本全国47都道府県全てにおいて30円以上アップします。フルタイム勤務の場合、30円=月160時間前後=約5000円/月、年間60,000円/人の人件費アップ、という考え方ができると思います。

その中で特に相談を受けるのが、パートさん・アルバイトさんの働き方や評価のあり方です。
これまでも言われていましたが、いよいよ本格的に考えていくべきタイミングにきました。
まずは、扶養の壁、と言われる、配偶者の所得税の扶養家族に入るための103万円の壁。そして、社会保険(健康保険と厚生年金)の扶養家族に入るための130万円の壁の存在は相変わらず変更はしません。
次に、壁は変わらない中、社会保険の適用拡大、ということで、2022年10月以降、従業員数101人以上規模であり、

① 週の所定労働時間が20時間以上
② 雇用期間が2ヶ月を超えて見込まれること
③ 月給が88,000円以上
④ 学生ではない

という4つの要件が揃うと、その勤務先でパート・アルバイトさんでも社会保険に自分で加入することが義務化され、さらに2024年10月以降は従業員数51人以上規模に拡大適用されることが決まっていることで、日本全国でかなりの割合でパート・アルバイトさんの社会保険加入が進むと思います。

そうなると何が起こるのか。

社会保険の扶養家族の有無に対して支給している賃金項目がある場合、その支給がストップすることが考えられます。すなわち、家族手当的な項目の支給について、定義の見直しを行う企業が必ず増加します。間違いありません。
ルール上は、家族手当の支給対象から外れるから家族手当は支給しません、と言い切ることはできますが、それが言いにくい時代に入っている、ということがポイントです。
なぜなら、配偶者に対する家族手当は10,000円〜20,000円前後の単価設定をしているケースが多く、支給がストップすると年間20万円程度の減給となり、食料品やガソリン等の物価上昇時には結構なダメージであり、これを機にもう少し給料の良い会社へ転職できないか、という発想につながる方々が出てくることに対して心配している中小企業の経営者も多くいらっしゃる、というのが実情で、家族手当の定義の見直しを含め、賃金体系の見直しに対する相談が増えてきている、という現状があります。

2022年10月からの最低賃金アップで良く相談を受けること②パート・アルバイトの評価制度

もう一つある、よくある相談事項として、これまで、パート・アルバイトさんにも簡易版とはいえ、評価制度を構築し、よくできるパートさんにはSやA評価、普通でB評価、もう少し頑張ってもらいたい方々にはCやD評価、という結果を手間暇かけて行い時給も100円〜10円程の幅の中で動かしていた企業からすると、最低賃金が「30円以上」上がってくるとなると、評価による昇給時給のあり方を見直さないとバランスが悪くなる、ということで、評価制度の見直し相談もかなり増えてきています。

最低賃金ギリギリやキリの良い時間給設定をしている企業からすると、これまで評価が悪かったパート・アルバイトさんでも30円以上時給がアップする中で評価による昇給時間の差を10円や20円つけたところであまり意味がないのでは、と考える企業様が多いように思います。

今後出てくると思われるパート・アルバイトの賃金評価体系について

まずはパート・アルバイトさんご本人さんのご意向をヒアリングすることからスタートです。
「時給が上がっていく中、配偶者の扶養の範囲内での勤務をこれまでのように希望するのか否か」問題となってくるのが、扶養の範囲内での勤務を引き続き希望される場合です。
時給単価が上がるので働くことができる時間数を減らすしかありません。
仕事ができるパート・アルバイトさんに何とか報いたい、と考える企業様としては、賞与も扶養の金額基準に含まれてくるので、あとは退職金制度で差をつけるしかない、ということで、退職金制度の設計や見直しが進むと思われます。

次に、手間暇かけて評価して、10円単位で昇給時給の差をつけてもあまり意味がないのでは、と考える企業としては、おそらく仕事ができる人だけ昇給を行い、それ以外の普通レベルの方々は昇給無しとし、最低賃金のアップ分のみアップさせる、という考え方がより強くなってくるものと思われます。
そのため、パート・アルバイトさんを管理している社員が、この人は是非時給を上げてもらうべきだ、というSやA評価レベルの方を推薦し、会社承認を得るためのフローの整備が強化されていくものと思われます。B評価以下の方は人事業務の効率化も含め、何もしない。あとは本人さんが昇給を希望する場合は自己申請を上げてもらう仕組みとする。
この仕組みで重要となるのが、職務記述書、と呼ばれるジョブ型雇用を運用する上で鍵となる各個人別の仕事内容の言語化、ということになります。
この仕事内容、分量、役割ならこの時給、という設定をする企業が増え、基準をオープンにし、あとは自己申請させる道を作ることで希望者にはチャンスを与える、という方式がお互いにとって良い仕組みかと考えています。

以上のような持論を展開させていただきましたが、各社各様のベストアンサーが求められるので、ご支援先のニーズや起っている問題をよくお聞きし、時にはこれまでになかったと思われる刺激的なご提案も織り混ぜながら、納得度の高い制度構築をサポートできればと思う今日この頃です。

下村 勝光(しもむら かつみつ)
MIRACREATION株式会社 取締役。社会保険労務士法人MIRACREATION 代表社員。
仕事を通じて「笑いと驚き」を提供したい!をコンセプトに、北浜にある大阪証券取引所ビル8Fを本拠地としつつ、日々テレワーク中。
「難しいことをおもしろくして」をモットーに、現場に即した具体的なアドバイスを受けられると経営者から人気を博しております。
生まれは茨城県、育ちは大阪。趣味はフルマラソンで何とか3時間28分台を目指しております。

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