【2024年4月法改正】裁量労働制の見直しに伴う新たなルール

2023.11.24

【2024年4月法改正】裁量労働制の見直しに伴う新たなルール
2024年4月には「裁量労働制の見直し」に関する法改正が施行されます。
労務の現場において、今後新たに裁量労働制を導入する企業だけでなく、既に導入済みで、制度を継続する企業にも新たな手続きが必要となっており、実務への影響が避けられないため、今回は法改正のポイントをお伝えしていきたいと思っています。

そもそも裁量労働制とは何?

実際に働いた労働時間の長さに関係なく、あらかじめ労使間で決めた労働時間を働いたものとみなす、という労働基準法上の「みなし労働時間制」のひとつが裁量労働制となります。
具体的には、裁量労働制を適用する場合で例えば、労使協定で「1日7.5時間働いたものとみなす」と決めた場合には、実際の労働時間が9.5時間であっても、あるいは5時間であっても、「7.5時間労働したもの」とみなされて賃金が支払われることになります。
ここでいう7.5時間とみなしている設定時間が、実際の労働時間と乖離しすぎる場合に、従業員側からの苦情や不満を持った従業員から労働基準監督署への相談により問題化するケースがありますので、時間設定を行う時は実際の労働時間の平均値を計測した上で設定することをお勧めします。

ちなみに、裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」と呼ばれる2つの制度があり、裁量労働制を導入している企業の割合は5%にも満たない状況ですが、2つを比較すると「専門業務型」の方が「企画業務型」よりも多い状況です。

専門業務型裁量労働制とは

専門業務裁量労働制の対象業務は「19種類の業務」に限定されていますが、改正により新たに「銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務」が追加されます。

専門業務型裁量労働制を導入するには、労使間で法定上の必要事項を定めた労使協定を締結し、それを所轄労働基準監督署へ届け出て、労働者に周知しなければならないことになっています。

2024年4月以降は、この労使協定に定めるべき事項に次の内容を追加する必要があります。

1.労働者本人の同意を得ることや、同意をしなかった場合に解雇等の不利益な取扱いをしないこと
2.同意の撤回に関する手続きと、同意とその撤回に関する労働者ごとの記録を保存すること

これまで「労働者本人の同意」は要件にありませんでしたので、制度の趣旨や目的をしっかりと伝える必要が出てきます。

また、既に専門業務型裁量労働制を導入している企業は、2024年3月末に向けて、適用対象の労働者から個別に同意を得る必要があります。
なお、労働者の同意に関しては、労働者が制度を正しく理解し、労働者の自由意志に基づいて同意していることが必要となります。

企画業務型裁量労働制とは

企画業務型裁量労働制を導入する場合、対象事業場において、労使双方の代表者を構成員とする労使委員会を設置し、

1.対象となる業務
2.対象労働者の範囲
3.みなし労働時間

など法定上必要な事項を決議し、当該決議内容を所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。

なお、対象労働者から個々の同意を得ることについては現行法でも求められています。

2024年4月以降は、労使委員会の運営規定に、

1.対象労働者に適用される賃金・評価制度の内容についての使用者から労使委員会に対する説明事項(説明を事前に行うことや説明項目など)

2.制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項(制度の実施状況の把握制度や方法など)
3.労使委員会の開催頻度を6カ月以内ごとに1回とすること

を定めなければなりません。
なお、定期報告の頻度については、労使委員会の決議の有効期間の始期から起算して初回は6カ月以内に1回、その後は1年以内ごとに1回になります。

さらに、労使委員会の決議には、

1.同意の撤回の手続きと、同意とその撤回に関する記録を保存すること
2.対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うこと

を追加で定めなければなりません。

その他の留意事項

裁量労働制では、対象労働者の労働時間の状況を把握するとともに、その状況に応じて、労使協定または労使委員会決議で定めた健康・福祉確保措置を講ずることとされ、具体的な措置については指針で例示されている中から選択して実施することが望まれています。
改正によって新たに、勤務間インターバルの確保、深夜業の回数制限、労働時間の上限措置、一定の労働時間を超える対象労働者への医師の面接指導などの措置が追加されました。
新規導入および継続を考えている場合は、来年4月に向けて準備を進めていきましょう。

改めて認識すべき裁量を持って働くメリット8つ

労働時間の裁量だけではなく、仕事の進め方等に対する裁量を持って働くことのメリットは多々あります。
上記にも記載しましたが裁量労働制の導入はあまり進んでいませんが、今回の法律改正を機に、労働時間だけではなく、「裁量を持って働く」ということまで社内で考えてもらえればと思い、メリットを挙げさせてもらいます。

1. 創造性と革新性の促進:

従業員が自分の方法でタスクを解決する自由を持っていると、より創造的な解決策や革新的なアイデアを生み出す可能性が高まります。


2. 従業員の満足度とモチベーションの向上:

自分の仕事に対してコントロールを持っていると感じると、従業員の満足度が高まり、それが高いモチベーションにつながることがあります。


3. 個人のスキルと能力の発展:

自ら判断し、問題を解決することで、従業員は新しいスキルを学び、既存の能力を強化する機会を得ます。


4. 責任感の強化:

裁量を持つことで、結果に対する個人的な責任感が高まります。これにより、品質の高い仕事が促進されることがあります。


5. 柔軟性と対応力:

変化に対応し、必要に応じて作業方法を調整できる柔軟性が、裁量のある環境では育まれます。


6. ストレスの低減:

自分のスケジュールや仕事の進め方をある程度コントロールできることで、仕事のストレスが減少することがあります。


7. 生産性の向上:

従業員が自分のやり方で仕事を進めることができると、無駄が減り、より効率的に仕事をすることができるため、生産性が向上する可能性があります。


8. 組織の柔軟性:

裁量を持つ従業員は、市場や業界の変化に迅速に対応し、組織全体の適応力を高めることができます。

特に、経験の浅い若手社員に裁量を持たせて働いてもらうためには、先輩・上司が丸投げではなく、ポイントや節目となる部分はチェックしながら、うまく見守っていく必要があろうかと思います。

まとめ

チャンスを与え、成功体験や自信も付けさせながら、時にはしっかり指導する。
今年の阪神タイガース日本一の原動力になった新人選手を使い続けた岡田監督のような心境や接し方をイメージしながら、裁量について考えてもらえるきっかけになればと思います。

下村 勝光(しもむら かつみつ)
MIRACREATION株式会社 取締役。社会保険労務士法人MIRACREATION 代表社員。
仕事を通じて「笑いと驚き」を提供したい!をコンセプトに、北浜にある大阪証券取引所ビル8Fを本拠地としつつ、日々テレワーク中。
「難しいことをおもしろくして」をモットーに、現場に即した具体的なアドバイスを受けられると経営者から人気を博しております。
生まれは茨城県、育ちは大阪。趣味はフルマラソンで何とか3時間28分台を目指しております。

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